お父さんがいなくなったのは
私が7歳の誕生日。
冷たい雨が降っていた。

10歳離れたお姉ちゃんは学校からダッシュで帰り、誕生日のケーキを作る。私は嬉しくて台所のお姉ちゃんにまとわりついていた。

『美羽(みう)は座ってて』
いつもおっとりしたお姉ちゃんに怒られたぐらいだから、かなり私のテンションは高かったのだろう。

お母さんはそこにいない。
買い忘れたポン酢を買いに行った。

『美羽の誕生日は鍋がいいな』
お父さんが提案し
昨日のうちに材料を揃えていたはずなのに
大事なポン酢を買い忘れた。

お母さんは完璧に見えてどこか甘い。
お父さんを選んだのが、その見本かもしれない。

後から考えると
主役は私なのだから
私が好きな物をリクエストすればよかったんだ。

鍋じゃなかったらポン酢はいらなかったし、お母さんは買い物に行かなくてよかった。

でもそれを言うと
お姉ちゃんは『私が買い物に行けばよかった』って言って
お母さんは『どのタイミングでも出て行く人は出て行くから』って言って

グルグルグルグル

観覧車のように答は回る。

正解はない。