真面目に喜ぶ稲葉は、わたしの手を取り、走りだした。
「急がないと遅刻しちゃいますよ!!」
「それはわかるけど…手を繋いでいいなんて言ってないぞ!!」
わたしが怒鳴っても稲葉は手を放さず、結局バス停まで手を繋いで走った。
「貴様なんかと手を繋ぐなんて…一生の不覚だ!!」
「そんなふうに言わなくても…」
稲葉はバスの外に見える川原を眺めながら口を尖らせた。
あぁ――
あの川原……
壱里とよく行ったなぁ…。
川原を見ているうちに
わたしは、無性に川原に行きたくなった。
「おい、一年」
「稲葉です…」
「このわたしがお前なんかと手を繋いでやったんだ。
代償としてわたしの我儘に付き合え」
わたしは、断られるのを覚悟で言った。
普通の男ならここまで言われるとキレるだろう。
……が。
「はい!喜んで!!」
……こいつ
"ホンモノ"のMだ……。