一番ムカつくのは、あいつが……
ギュッと拳を握ったとき
ポツ―と、冷たい雫が額に当たった。
「…雨か」
わたしは、灰色に濁る空を見上げた。
こんな雨の日は、きみを思い出すよ…。
「壱里(イサト)…」
わたしは空に向かって、過去に愛した人の名を呼んだ。
否、今でも愛してる人だ…。
「いばらちゃん」
優しい声を聞き、わたしはゆっくりと振り返った。
「梓…」
「雨降り出したから。
傘持ってなかったでしょ?」
梓は、ビニール傘を差し出した。
「ありがとう…」
「兄ちゃんのこと、思い出してた?」
傘を受け取る手が、思わず止まってしまった。
「……」
梓は、壱里の妹だ。
いや…妹だった。
「別に。ただボーッとしてた」
「嘘。あづにはわかるよ。
兄ちゃんの思い受け継いでんだから」
梓は、ニッと笑いわたしの鼻を小突いた。
「梓…」
「あづは…本気でいばらちゃんが好きなんだよ?」