簡単に…


壊れた。





稲葉の顔から、笑顔が消えかけていた。





「…父親が……全く俺と話さなくなりました。
話し掛けても冷たく対応されて。
辛くて、俺は父親を避けるようになりました。

……そのうち、顔も合わさなくなるくらい」




稲葉は複雑そうな声色で言った。





恨んで、憎んで、悪口を言うのは簡単だろう。



でも稲葉はそれしない。





悔しさや、憎しみ

愛しさや、哀しみを滲ませた表情をしているのに




そのすべてを吐き出さないのは、きっと

それだけ父親に愛されていたときの思い出が大きいのだろう。




「……どうして、お前の父親は、お前を避けたんだ?」

「……似てたからです…」




稲葉は、無理矢理口角をあげた。



口の端が震えている。






かなり無理をしているんだな…。





「……母親と…俺が、同じ顔をしていたからです」













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