わたしは人込みを擦り抜け、少し歩いた。



暫く行くと、誰も人が来ていない場所にたどり着いた。






「……懐かしい」





昔…ここで壱里と花火を見た。







二人だけの秘密の場所だった。





花火を見ようと集まる人達のざわめきが遠くなって来た頃


人の足音がした。





「…」

「……いばら先輩…!」



振り返ると

癖のある茶髪を振り乱し、息を切らしながらわたしを呼んだ稲葉がいた。





「遅いぞ。このわたしを待たせるとは何様のつもりだ?」

「す、すいません!
でも、花火が上がる頃にここに来いってメールがきたとき、信じられなくて…」

「わたしが嘘をつくとでも?」

「い、いや、そーゆう意味でなくって…」




稲葉は柄にもなく慌てて否定した。


「ほんとに、嬉しすぎて夢かと思ったんです…」




珍しく照れている。




馬鹿だったりMだったり

真剣だったり照れたりと…


百面相だな。





「夢ならわたしはもっと優しいかもな」

「そうっすね………あっ…!」

「稲葉、貴様ぁ!!」

「すいませんっ!」



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