「オイ、一年!!」


どれだけ呼んでも稲葉は全く聞こえていないかのように歩き進める。


「っ!!

待てコラ稲葉!!」




わたしは、大声で稲葉の名を呼んだ。



校舎全体に響くんじゃないかってくらいの声だった。





「…せ…先輩?」

「貴様!このわたしを無視するとはいい度胸してんじゃねーか!!」

「……」

「聞いてんのか、コラ!!」

「…だって…先輩、スゲェ楽しそうだったから」





稲葉は、俯いたままぼそりと言った。




「は?」


「やっぱ…年下といるのと…同級生じゃ違うのかなって」




……確かに

恭二と話していて、楽しかった。




でも…


だからといって、稲葉といてつまらなかったのか?





否―


そんなこと考えもしなかった。



ただこいつはわたしのそばにいたから


いてくれたから





楽しいとか、つまらないとか


そんなのは論外だった。






「…確かに…幼なじみと再会できたのは嬉しかった。
でも…お前といて楽しくなかったわけじゃないよ」



稲葉は、安心したように微笑んだ。



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