「それが…先輩の」
「…初恋で、初体験」
わたしは、遠くに見える町を眺めながら、呟いた。
「全部、壱里が初めてだった」
苦笑いをしながら、稲葉を見ると
稲葉は俯いて泣いていた。
「ちょ、え、一年!?
何で貴様が泣く!?」
「い゙…稲葉です…ッ。
だって先輩…辛かったですよね。
好きな人が目の前でって…」
稲葉はしゃくりを上げながら、涙を拭った。
「先輩は…めちゃくちゃいい恋をしたんですね」
服の袖で涙を拭きながらニコリと笑った稲葉は
やっぱり、壱里にとてもそっくりだった。
「せ、先輩?」
「…っ…貴様、泣きすぎ」
わたしは、顔を反らして、ぶっきら棒に言った。
「だ、だって…」
「でも」
「え…?」
「泣いてくれて、ありがとう」
あの日、空に向かって呟いたときとは違う
晴れやかな笑顔で、ハンカチを稲葉に叩きつけた。
「…ぶっ…。…え、…先輩?」
「やる。お前の鼻水拭いたハンカチなんかいらん」
わたしはスカートに付いた砂埃を払い、立ち上がった。