わたしは、ぴたりと立ち止まり、じっと川原を見つめた。


変わることのない、緩やかな川の流れ。

そしてその川に映る、真っ青で大きな空。



この川のように穏やかで

この空のように広大で


この風のように、爽やかだった…



明るくて、優しくて

涙もろくて、バカ正直な―――




「先輩?」



ひょこっと、わたしの顔を覗き込んできた―


「いさ…と?」


「何か言った?先輩」



じっとわたしを見ていた『稲葉』の声で、わたしはハッとした。




バカか、わたしは!!


目の前にいるのは、壱里じゃなくて、ばか稲葉だぞ!?



わたしは、心の中で自身を叱咤した。



でもやっぱり、こいつが壱里に似すぎてるんだ。



「せーんぱい?」

「何でもない!!あまりじろじろと見るな!」



わたしは稲葉から顔を背けた。


「はぁい」


稲葉は能天気な返事をして、わたしの隣に来た。


「一年」

「だから稲葉ですって」

「じゃあバカ稲葉。
お前…わたしの話、聞いてくれるか?」

「どんな話ですか?」


「…昔の…恋人の話だ」