「あー、あれね。僕の本能が解放されちゃったと言うか...はは」


首の後ろをさする棚倉先輩。

ははは、じゃないですよまったく。


「なっか吹っ切れた綾乃ちゃん、やっぱ可愛いって」


「どうも」

愛想なく返事をする。


「でもね、一平に愛想つかしたら僕の胸に飛び込んでおいで」


両手を広げて笑う棚倉先輩がこっけいでおかしい。


「そうならないことを祈っててください」


「だよねぇ」


肩をすくめて広げた両手を残念そうに下ろす。



「ねぇ、トラウマのない人間なんてこの世にいるのかな?」


遠くを見ながら棚倉先輩はポツリ言う。


「さあ....私には」


棚倉先輩はそのまま黙ってしまった。