バシッ


頭に軽い衝撃を感じ、丁度良いシーンを

読んでいたところを邪魔された俺は、

頭を叩いたであろう主を探して睨んだ。


「…何するんだ」

「おう、はよう」


睨まれているというのに、

当の本人はまるで何もなかったように、

爽やかな笑顔で挨拶をする。


彼は、西垣 湊。

中学校で知り合い、彼の持ち前の明るさから

仲良くなり、今では俺の少ない友人の1人だ。


(おう、じゃねえよ…)


これもいつものことなので「おはよう」と

本を閉じながら挨拶を返す。


「俺が読書を邪魔されるの
  好きじゃないの知ってるだろ」


声のトーンを下げて不機嫌そうに言うが、

そんなことは気にしないようで、ハハハと笑う。


「ごめんごめん。でも何回呼んでも
  気づいてくれなかったからさ」


それは俺も悪いと思うが…


「何も叩くことないだろ…」


そう言うと湊は

「別の方法を考えるよ」と言った。

そういう意味ではないのだが…



会話が終わり、俺は視線を湊から少しずらして

教室全体を見渡す。

ほとんどの生徒が来たみたいで、

空席の方が少ない。

時計を見れば、もう8時35分だ。

そろそろHRが始まる。

立ち歩いてる生徒も少ない。

湊も時計を見て時間を確認すると、

「またな」と言って自分の席に戻っていく。

どうやら廊下側の席のようだ。結構離れている。


まだ騒がしい教室から顔を逸らし、

校庭を眺める。

流石に今来ている人はおらず、

窓の外にはあまり広くはない校庭がある。

この高校は山の方にあるので、教室から

眺めるだけで、住宅の多い下町が一望できる。

HRが始まるまでの短い時間、

俺はぼーっと空と下町の境目を見ていた。