ぼんやりと考え事をしながら廊下を歩いていると、不意に何かにぶつかった。


どうやらそれは前から来た男の子だったようで、上から樺月を睨みつけるようにして見ていた。


「あ、あの。すみませんでした。」


穏便に済ませたくて謝るが、反応がない。


「あ、あの!すみませんでした!」


少し声を張り上げると、隣にいた物腰の柔らかそうな茶髪の男の子が申し訳なさそうに近付いてきた。


「ごめんね。大丈夫?こいつ、無愛想で。ほら伊月、ちゃんと謝れ。」


すると、樺月とぶつかった黒髪くんは反省の色など少しも見せずに謝った。


「はあぁ。わかったよ。ごめん。」


むかつく。


こちらはぶつかったことを悪いと思って謝っているというのに。


「こちらは悪いと思って謝っているのに、その態度はなんですか。自分が一番偉いとでも思っているんですか。」


言ってしまってから気付く。またやってしまったと。


思ったことは直ぐに口に出してしまう性格だからか、樺月は周りから陰口などを言われることも多かった。


はあ。と一つため息をついて俯いていると、黒髪くんは謝ってきた。


「あー。そっか。そうだよな。ごめん。」


まさか素直に謝ってくれるとは思っていなかった為、驚いて目を見開いてしまう。


「そんな驚くなって。とにかく、ごめん。じゃあ。」


取り残されてぽかんとしていた樺月が我に返った頃には、もう授業が始まっていた。