蒸し焼きになってしまいそうな暑さの中、少女ーー鳳仙 樺月ーーは教室の片隅で立ち尽くしていた。


「だからさ…別れようって。」



それは、突然のことだった。今まで付き合っていた彼氏にいきなり呼び出され、別れを切り出されたのだから。


正直に言ってしまえば、樺月は彼氏のことを愛していた。

大好きで、どんなことでも乗り越えていけると、そんなことを根拠もないというのに信じていた。


「な、なんで…」


「あのさ、重いんだよ。もう、無理だ。」


その言葉は彼女の心臓を抉るのには充分だった。


「そっかあ。ごめんね。無理、してたんだね。」


「ああそうだよ。じゃあ、な。」


彼女は必死に笑顔を作り、元彼氏の少年を見送った。


それからだ。


彼女は、心を閉ざしてしまった。


それを抉じ開ける人間が現れることなど、この時の樺月は知るよしもなかった。