桜並木の下で、マメはもういないのに、掠れた声で、ぽつりとつぶやいた。
冷え切ったコンクリートに、涙が一粒落ちた。
……本当だ。
俺は、何も分かってなかったんだな。
マメ、ごめんな。
***
「コウちゃん、おかえり」
「あーはいはい」
「今日の晩御飯エビチリだよ」
「なんでお前が知ってんだよ」
今から14年前。
通わせたい学校が近くにあるからと、わざわざこの市に引っ越してきた家族。
最初そう聞いたときは、とんでもなく教育熱心な家族なんだなと思った。
初めてマメに会ったとき、マメはまだ6歳で、俺もまだ8歳だった。
第一印象は、マメ。おかっぱだし、色白で丸顔だったから、本当にマメみたいだなと思った。
マメは最初全然俺に懐いてくれなくて、新しい土地や学校に慣れることで必死で、いつも不安そうな顔をしていた。
同じ学校に通う先輩として、俺がマメの面倒を見るのは必然で、一番最初に仲良くなるのも、必然だった。
段々とマメが懐いて、笑ってくれるようになって、最初は豆粒みたいだったのに、中学生になると突然マメは女の子になっていた。