ハァッ……。

全速力で走ったせいで息があがる。


なんで、お母さんがあんな悲しそうな顔をするんだろう。


秋十が私をいじめていた理由なんて、私だって知らないよ。


ムカつくからって、いつもそれしか言わなかったから。



夏の炎天下にさらされた肌に汗が滲んでいる。


私はスーパーの前にある横断歩道で足を止めて、答えのわからないことをひたすら考えていた。



クマ蝉の声が空へと響く。

夕方に近づいても茹だるような暑さ。

見てるだけで焼けそうなアスファルト。

陽炎の向こうにある町並み。



そして私は、お父さんと最後に手を繋いだ場所だってことに、ようやく気づいた。



信号が青に変わって横断歩道を渡る寸前、



「ワンッ!」



私を引き留めるかのような元気のいい犬の声が聞こえてきた。