「……なに?」


「お父さんが受け持っていたクラスの、一人の男の子のことよ……」



思い出すように静かに声を落とした。

当時お父さんは二年生のクラスを受け持っていた。


その中で、お父さんがすごく気にかけている生徒がいたらしい。


お父さんが帰宅した夜、お母さんとその子の話をしているのかなって思うことが、何度かあった。



「あの子は、気持ちを伝える方法を知らなかったんだと思う。お父さんね、どんなにひどいことを言われた日でも、その子のことを笑って話してくれたの」



お父さんは子供はみんないい子なんだって言っていたもんね。


あの夏の日。

私がふてくされてヘソを曲げていた理由も、クラスやその子の話ばかりしていたから面白くなかったんだ。


ただのつまらないヤキモチだった。