* * *



「……いな、仁菜?カレーが冷めちゃうわよ?」



お母さんの声にハッとした私は一気に現実へと引き戻された。


私、今……お父さんのこと思い出してた。



「どうしたの?ボーっとしちゃって。ご飯が干からびちゃう」


「う、うん……」


……と。

そこでタンスに飾られた写真が視界に映り、その中で笑うお父さんと目が合った。


お母さんの大好きな豪快に笑うお父さんの写真。

日に焼けた肌に、白い歯がよく目立つ。

私はずっと聞きたかったことを聞いてみる。



「お母さんは、お父さんの話をして……悲しかったり、辛くないの?」


「……えぇ?そうねぇ。寂しいけれど、ちっとも辛くはないわよ。お父さんとの思い出があるから……。何より、仁菜がいるからねぇ」



優しい声音に泣きそうになった。



「お母さんね、お父さんのことを思い出すと、時々一緒に思い出すことがあるの」