「………淳
…とうとうこの日が…」


息を切らして、玄関先に立つ俺と
籠の中で泣きわめく
赤ん坊を見た時のミチルの台詞
開口一発は、それ


彼女は、俺が高校で
アイスホッケー部にいた時のマネージャー
幼なじみみたいなもん

見た目は派手だが、面倒見がいい


ネイルアートを勉強する為
一足先に、東京に出て来ていた




「…とりあえず、預かるわ

淳は仕事行って
時間、急いでるんでしょ」


「マジで…悪い」


「帰って来たら、ちゃんと話しよ」


「…了解」




ドアを閉める時
赤ん坊の入った籠を抱える
少し困った様な、愛しそうな
複雑な表情をした、ミチルの顔が見えた


…そりゃ、困るよな


しかし今は、考えている暇は無い

終電にはまだ早いが
集合時間にはギリギリ
駅まで走り、電車に飛び乗る


待ち合わせの新宿まで
ずっと視線は、夜桜の続く窓の外と
最近新しくした、携帯電話の時刻表示を
忙しく 行ったり来たりしていた