「ほぁー、たでーまー」
「おぅ、お帰り」
隆雅とアニメやゲームの話をしながら帰って来た私をリビングから顔を出したお兄ちゃんが迎えてくれた。
田中 隼人。20歳。大学一年生でサッカーをやってるんだけど、こうやってなんにもにはない日は夕飯を作ってくれる。
私が幼稚園生の時に両親が離婚して、私とお兄ちゃんはお父さんと住んでいたんだけど、お父さんも亡くなった後引き取りにきたお母さんに、

『お前のところになんていかない。真依は俺が面倒を見る』

まだ中学生だった私の手をぎゅっと握ってお母さんを睨んだお兄ちゃん。
それからずっと二人暮らし。
料理は私とお兄ちゃんどっちも出来るけど、やっぱりお兄ちゃんの方が上手。
あー、いい匂いだぁー。
「ねぇねぇ、今日の夕飯なぁ~に~?」
「んー?カツ丼だぞー」

そこでピタッと私の動きが停止した。

「ん?どーした真依?」
「ねぇ、お兄ちゃん。先週もカツ丼食べなかった?」
ギックゥッ‼とお兄ちゃんは体を大きく揺らし、目を背けた。
あ。これは………まさか。

「お兄ーちゃーん?まさか、またセールだからって大量に買ってないよねー?」

「い、いやー、そんなことないぞー?ちゃんと考えて買ってるぞー?」
怪しい。これはかなり怪しい。
ジリジリと間合いを詰め、私は冷蔵庫の扉を勢いよくあけた。
「あっ‼ちょ、真依‼」
「やっぱり!もー、ちゃんと節約してって、何度も言ってるじゃん‼」
中にはお肉の入ったパックが5個。
お兄ちゃんは何故かセールと聞くと大量に買ってしまう癖があって、どこぞの姑か!とツッコミたくなるほど買ってくるから、私の弁当がゴージャスになるときがあるのに…。
結構食べるのが大変なの、それが。
そんなことは露知らず、お兄ちゃんは口を尖らせて反論してくる。
「だってさ、一つ200円って安くね?」
「そーいうことじゃないの!
もう今度からお兄ちゃんの分は作ってあげないからねっ」
「それは止めてくれよ真依~っ」
「知るかっ‼」
そんな口調で罵りつつもお兄ちゃんの作った夕飯は全部食べる。おいしいし。


「あー、おいしかったぁー…」
「だろ?」
ドヤ顔で私の顔を見るお兄ちゃんは、皿洗いを済ませて、今私とリビングでテレビを見てる。
「わっ!すげぇな、これ」
そう言ってお兄ちゃんが指指すのはゲームでハイスコアを叩き出した男の人。
「お前もあんだけできればなぁ~」
「そーいうお兄ちゃんはゲームで私に一度も勝ったことないくせに」
ビールを片手に飲むお兄ちゃんにそう言えば、いきなり吹き出した。
「ちょっ、汚い‼」
「…うげっ、おまっ、そこいうなよ‼」
「はぁ⁉関係ないでしょ、今のは‼」
と罵って時計を見たら。
「あっ、ヤバッ‼」
私はバタバタと足音を立てて自分の部屋に飛び込み、パソコンを起動させゲームにログインすると。
『マイ、遅い(# ゜Д゜)』
画面に現れたのはカッコイイ鎧を着た男の子は隆雅のアバター。
そう私はオンラインゲームをしているのだ。それも毎日欠かさずに。
あちゃーまた待たせちゃった。
『ごめ~ん、お兄ちゃんとはしゃいでた( ̄▽ ̄;)』
私のは可愛いフリルのついたドレスアップをしたエルフの少女。もう超可愛い‼
『ブラコンかお前?』
『違う‼ブラコンじゃない‼』
確かにお兄ちゃん好きだけど、ブラコンじゃないもん!そこへ、渋いアバターがチャットに入ってきた。
あっ、あれはっ……‼
『二人とも来てたのか。早いな』
『あ、こんばんはです~(*・∀・*)ノ
アキさん』
『こんばんは、マイ』
『おつっす』
『おぅ、リュウ元気か?』
『元気っす』
はぁ~っ。
今日もアキさんカッコイイよぉ~ っ‼
思わず頬に手を当てて、顔を左右に降っていると。
───バタンッ‼
部屋のドアが勢いよく開いた。
「にぎゃっ⁉」
ななななな、何っ⁉
驚いて後ろをみれば腰にタオルを巻いただけのお兄ちゃんが。
ひぇえ、かっこいいぃぃ‼じゃなくて‼
「おっ、お兄ちゃん何の用⁉」
「おい真依‼シャンプー詰め替え買ってこいって昨日言ったじゃねぇか‼なんでないんだよ‼」
シャ、シャンプー⁉
「へっ⁉…あ、いやっ、そのっ、お、お兄ちゃん、服っ」
「あぁ?聞こえねぇぞ真依!」
ひぃぃいい、ふ、腹筋が美し過ぎるんだけど‼綺麗に六つに割れてますね!
いや、そういうことじゃなくて‼
「その格好で近づいてこないで…あの、おねがっ……」
──ブチッ。
そこで何が切れた私はお兄ちゃんの顔面にパンチをし、お兄ちゃんは一週間自宅療養となった。