「ボス、メール確認されました?」

秘書の山下が、声をかけて来て紅茶の入ったティーカップを直人の前に置いた。

「ああ、小学生にゲームのプログラムを教える授業をしてくれってやるだろ…?」

山下保は、直人と伸也のオフィスには珍しい、硬い風貌の男だった。

「はい、江藤副社長はその日はクライアントとの打合せが入ってますのでボスに、とおっしゃってましたが、どうされますか?」

山下は、タブレットで直人のスケジュールを確認して話を続ける。

「ボスが、特にご自分の予定が無いようでしたら私の方で先方にOKの連絡を入れておきますが。」

黒渕のメガネをかけ直しながら、返答を催促するように直人の様子を伺っていた。

「ああ、頼む。
午後の授業に組み込んで貰えるようにしておいてくれ。」

直人の言葉の最後を待たずに、軽く頭を下げてから、タブレットでメールを打ち始めた。