「お母さん、今日は夜おうちに帰ってくる……?」
「…………。」

いつも、母に話かける時には、緊張していた。
「あの…おか……」

2度目に声をかけた時、母は綺麗に化粧をした顔を鏡に写して、その鏡越しに私の姿を捕らえた。

「はぁ……、あんたバカなの?
何回、同じことを言わせんの!
私に、いつ帰るとか予定を聞かないで!
全ては客次第なんだよ!」

そう言って、持っていた口紅をパチンと音をたてて鏡台の上に置いた。

「そっ、そうだよね……。」

私の母は、出張ホステスをしていた。
男の人から、呼び出されたり、旅行に付き添ったりして、お客さんの、お世話をしている。

だから、一度出掛けたら、いつ帰れるのかお客さんが、帰ろうと言うまで分からないそうだ。

とてもキツくて大変な仕事をして、お金を稼いでいるのだ。

「これ食費。」

そう言って、100円玉を3枚鏡台の上に置いて立ち上がると、綺麗な花柄のワンピースを針金のハンガーから外して着替える。