それでも僕は君が好き。






「星空ちゃん、転向しましょうか。」



きっかけは、高校二年生の春のこと。



春休みの終盤に差し掛かったこの時期は、満開の桜が窓の外の世界を幻想的に彩っている。




そんな外の景色に目を奪われていた真っ只中、まるで「星空ちゃんお腹すかない?」みたいなニュアンスで、叔母の景子おばさんにそう言われた。



「て、ん、こう…ですか?」



あまりに唐突なその提案に戸惑いながらも、私はおばさんが言った言葉を繰り返した。






「うん。星空ちゃんが良ければなんだけどね」


おばさんは、安心できるその笑顔を崩さずに、声だけを不安そうにして言った。



「私は、別に……でも、どうして急に…」


「……星空ちゃん、大変じゃない?」


「…え?」



おばさんは、ずっと保っていた笑顔を崩して、深刻そうな顔で俯いて、そう言った。


「あの…おばさん、、?」



質問の意味がわからない私は、おばさんの横へ移動して椅子に座り、声を掛けた。



「ううん。って言っても、もう転校の手続きしちゃってるんだけどね」



さっきと同じ笑顔に戻り、あははっと少しだけ乾いた声を漏らして笑うおばさん。


そのことになぜか私は、少し安心してしまった。



「ってことで、来週から頑張ってね。星空ちゃん。」



おばさんは、後から「勝手なおばさんでごめんね」と言葉を付け足し、静かに窓の外を向いた。


「綺麗な桜だねー」


「…うん。そうだね……」



まるで仲がいい友達に話しかけるみたいにそう言ったおばさんに、私はそう返すのが精一杯で。


消え入りそうな声で、そう言った。




ジリリリリリリ……

「ん…んぁ?」


あー……朝か……

低血圧で、寝起きが悪い私は、手探りで目覚まし時計のスイッチを押そうとした。



どこだ……目覚まし…………っ!?


「うわぁ!?」


ドダッ


「…………痛った……」


手探りで探していくうちに、いつの間にかベットの端までたどり着いていてしまっていたらしい。

そして見事に背中を床にクリーンヒットさせ、とてつもない痛みが全身を駆け巡った。


「うぅ…無駄な体力消費した…」


そうぼやいて、痛む背中を擦りながら階段を下りた。


トントントン……

「っ……まだ痛いし……」

時々背中を叩きながら、冷蔵庫から色々な材料を取り出して手際よく調理していく。





「よしっ、できた」


綺麗に盛り付けた弁当箱をバンダナに包み、急いで部屋に戻り、段ボールを漁る。


「あった……」

数ある段ボールの中から出てきたのは、ビニールに包まれた真新しい制服。


青い清潔なブレザーに、赤と白のチェックのリボン。
リボンと同じ色のスカート。

シンプルだけど、何故か人のを目を引くその制服は、女子のハートをギュッと捕えて離さない。


「えへへ……可愛いな…」


今日から私は、この制服を着る。
そして、まだ見たことのない世界を歩く。