院内に入りナースステーションへ急いだものの誰もいなく、辺りを見回し廊下にいる看護師に声をかけた。


「あの、すみません、神田華乃は」

「神田さんですね!分娩室にいますよ!こちらです!」


分娩室ってことは、まだ産まれてないのか?


看護師に案内され、分娩室に向かう。


息を整え、ほんの少し緊張しながら、開けられたドアの中に足を踏み入れる。


──と視線の先には、リクライニングで少し起き上がった分娩台の上にいる華乃と、華乃の胸の辺りにいる小さな生き物。


くそ、間に合わなかったか。


「お父さんですか?」


華乃の横にいたおばさんは、にっこりと俺に微笑んだ。

助産師の名札が目に入る。


「はい」

「つい先ほど産まれたんですよ」

「あ、そうなんですか」

「龍成」

「華乃、悪い。仕事で遅くなって」


駆け寄ると、華乃は疲れた顔をして笑った。