…こっちも本物の馬鹿かよ。


「相手すんのも面倒くせぇよ」

「そんなこと言わずに行こうよ。ね?」

「行きたいなら三人でどうぞ。俺は愛する嫁が待っている家に帰ります」

「よ、嫁って……!」


帰ろうと振り返ると、背中から聞こえた驚く声。立ち止まり顔だけ後ろに向けた。


「俺には何にも代え難い、愛してやまない嫁がいる。俺を癒せるのはそいつしかいない。他の人間にはくそも興味ねぇ。キャバ嬢に癒される程俺は安い男じゃねぇんだよ。嫁以外の女の相手する暇は微塵もねぇ。三人でどうぞ仲良く行ってらっしゃいませ」


当てつけのように左手を軽く挙げる。


「…うそ……。やだ……」

「……ちっ」


背後の不快な反応に耳も傾けず、俺は足早にその場を去り、タクシーに乗り込んだ。


行き先を告げ一息つくと、さっきまでのイライラがほんの少し収まった気がした。


まだまだ言いたいことはたくさんあったけど、あの場にいることすら、だるくてただ疲れるだけだ。