いつものように社長室で書類に目を通す。


尽きることのない資料の山。

そのどれ程が頭の中に入っているか、俺自身わからない。

ただ一つ言えることは、今日は特に身が入らないということ。

かと言って普段から真面目に仕事をしているかと言われたら、即答できるわけでもないが。


悩みの主要原因となっている五十嵐の存在。


大した奴だよ。俺の中を男がこんなに占めるなんて、人生で初に等しい。


ぼやける視界。無意識のうちに吐き出していたため息。手は完全に止まっていた。


ヘッドハンティングなんて、俺には確実に向いていない。


「…親父、どうしてもあいつが必要か?」


社長席で資料を見ていた親父。俺とは違い、真剣そのもの。


「当たり前だ。だからお前に任せただろう」

「……だよな」

「契約をとるのが難しいと誰もが言う社をひと月で落とした。易々とできるものではない」