それがどうしてか理解できていないくせに、わたしの心はなぜか焦る。


「桜庭さんの旦那さんですか?」


言葉が詰まり何も言えずにいたら、それを察したのか新くんは躊躇いなく龍成に声をかけた。


「そうですけど、どちら様ですか?」


答える龍成は、外面を全面に押し出した、これでもかってくらいの笑顔。


わたしの不安を煽るかのよう。


「桜庭さんと同級生の内川新です。偶然会ったもので、宮間ひかりと三人でいたんですけど、宮間がタクシーで寝てしまい俺がここまで送ることにしたんです」

「そうだったんですか。それはどうもありがとうございました。妻がお世話になりました」


新くんに向かって、軽く頭を下げる龍成。


会話だけを聞くと何ともない普通の話なのに、龍成が放つオーラはどこか刺々しい。


気づいているはずなのに、新くんは笑顔を崩さず平然としている。


「いえ、それじゃ失礼します。桜庭さん、お疲れ」

「あ、うん!本当にありがとう!気をつけてね!」


新くんが乗ったエレベーターの扉が閉まると、龍成は何も言わず部屋に入っていく。