「──あ、ねぇ、わたし」

「知らねぇ」

「……え?」


知らないって、なにが?


「前のことなんて記憶にない」

「なにそれ。いいから、わたしの言ったことなんて気にしなくて…」

「マジで。俺にはお前の記憶しかない。つーか、お前のことでいっぱいで余裕がない」

「……無理がありまくりですよ」


さすがにそれは、わたしをなだめる為に言ってるとしか思えないわ。

嬉しいけどね。


「旦那の言うことが信じられないのか?」

「信じられないっていうかね、ありえないから」

「ありえないもなにも、お前の記憶が俺の中に入ってくるから、古いものは消されていくだろ。いらない記憶なんて特に早く削除される」

「そうなら嬉しいわ」

「なんで信じないんだよ。俺は事実を述べてるだけで」

「まず龍成から甘い言葉が出る時点で信じられないよ。もしかして別人?」