その、俺に向けた柔らかい笑顔が、また俺の心をくすぐる。


何も言い返すことができなくなった俺は、誤魔化そうと口の中にご飯を詰め込む。


「うわ、そんな食べ方したら喉詰まらせるよ」


……こいつ、もう完治したのか?

したよな?見るからに健康そのものだ。


でも昨日の今日で万全なわけはないよな。


そうだそうだ、こいつはまだ病人なんだ。病人、病人……。


呪文を唱えるかのように頭に叩き込む。じゃなければ、自分を止められなくなる。


きっと華乃が病人でなけりゃ、部屋に入った瞬間から抱きしめてるんだ。


結婚するまでの離れていた時間は、ひどく長く感じられていた。

帰る家が違うことに、寂しさと歯がゆさが後を絶たなかった。


だから二人で同じ家に住むということが嬉しくて、小さな感動すら覚えそうなほどで、自分を制御できなくなっているはずなんだ。


それを抑える俺の理性は、お前が病人だからと言うことだけで成り立っている。


早く、早く奪ってしまいたいんだ。


形や籍や世間体だけじゃなく、お前の全てを、俺だけのものにしたい。