俺 は 昔から 捨て犬 とか 捨て猫とか 放っておけないタチで 、絶対 拾って帰っちまう 奴だった 。

高校の時 バイトで やってた読者モデル の撮影の後に 使った服とか 貰って帰る タイプだったから 。

けど そんな俺でも 、いくら俺でも 、人間の女の子 を 拾ったのは 22年間生きて来て 初めてだ 。

あんまりにも 儚げに 今すぐにでも 消えてしまいそうに 雨の降る 駅に 濡れながら 立ってたから 、つい 声をかけて 連れて帰ってしまった 。

「 … なんか飲む? 」
「 ココア 。」
「 … 無ェよ 、」
「 ありえないんだけど 」

小説とか漫画とかドラマとかでは よくある展開なんだけど 大抵 は 女の子 は 無口で 拾った方が よく喋るんじゃないのか

このガキ … よく喋るわ 文句は多いわ ありえないくらい 図太い所からして 物怖じ しない奴なんだな 。

ココア の 代わりに 琥珀色 の 麦茶 を 実家から持ってきた ガラスコップ に 淹れて 出した 。

「 チッ… 」

… 明らかに 舌打ちしやがった この糞ガキ 。

「 セーラー服 って事は 中学生か 。」
「 … 」
「 なんか喋れよ 」
「 … あんた 、あたしに 立ち入った事聞いてくるけど 先に話すのが 礼儀なんじゃないの?」

セーラー服 が 立ち入った事かよ … 、

「 … 俺は慎一 。22歳 で 、大学生 。」
「 ふ 〜 ん … 童貞?」
「 ブッ?!」
「 汚いじゃない !!!なに吹いてんのよ!!」
「 おま 、中学生のくせに ど 、どどど童貞 … ?!」
「 童貞なのね 。」
「 ちげェよ!!」
「 嘘つき の 見栄っ張りね 。いいわ 、そういう事にしとくわ 。」

ふふん と 笑って ガラスコップに口を付けて 麦茶 を 飲んでる 。

「 独り暮らしなの? 童貞じゃないなら 女の人の 1人や2人 連れ込まないの?あ 、今連れ込んでるか 」
「 お前なぁ 〜 。女なんか 連れ込むかよ 、それにお前は ガキだろ 。女のうちに入んねぇよ 」
「 … 」

笑い話に したはずなのに こいつは ガキの割に 大人っぽく 整った顔の眉間 に シワを寄せて なにやら 考え込んでいる 。

「 … なんだよ 」
「 … べ 〜 つに 。」

ぷい と 向こうを向いた その姿は やっぱり 年相応 だと思った 。

「 … 俺は 一人暮らしだよ 。」
「 … そうなの … まぁ 、見たらわかるわ 。こんなに 掃除洗濯 が出来てないんだもん 。」
「 うるせぇよ 」
「 貴方の部屋の散らかりっぷりが うるさいわよ 。」
「 うるさいな 普通だろ お前ん家 どんだけ 片付いてんだよ 」
「 なによ 私の家はね … 。… 」
「 … なんだよ 。」

" お前の家 " " 私の家 " この二つの 言葉で 俺達の 会話は 止まってしまった 。
相手の 顔も さっきとは まるで違う 。こわばって 、血の気の引いた顔 だ 。
俺は 不味いことを言ったのかもしれない 、


「 お前 お袋さんは? 」
「 … 」
「 家は?」
「 … 」
「 兄弟は 」
「 … 」
「 … 親父さんは 」
「 … っ 、うるさいわね!!なんなのよ さっきから!!私の事なんて どうだっていいでしょ ?!」
「 な 、なんだよ 急に 」

別に 他人の子供を 拾った大人として 当然の 質問を しただけなのに こいつは 立ち上がって怒り始めた 。

「 落ち着けって 」
「 うるさいわよ!!言われなくてもわかってるわよ!!!」
「 いや全然 わかってね ー じゃん … 」
「 私の家の事 聞かないでよ!!別に あんたに関係ないじゃない!あんたにとって どうでもいいことじゃない!!」
「 いや どうでもよくねぇよ 、お前 家まで 送ってかなきゃ いけねぇし 、お袋さんとか 、親父さんにも説明 … 」
「 どうだっていいことよ!!だってあんたの目的は 私の体でしょ?!」
「 … はあ?!」

中学生女子の口から 出るとは普通思わない言葉が また 出たぞ おい 。

「 男なんて 全部そうよ!!私の体しか 興味無いのよ!!」
「 おま 、あのな 、お前 落ち着けよ 」
「 うるさいわよ この 童貞!!!」
「 お 、お前 ふざけんなよ?!お前 男なんて全部 っていうけどな!!この世の男 知り尽くしてんのかよ?!その歳で?! ガキじゃねぇか!!」
「 1人が そうなら どうせ 皆 そうなのよ!!!」
「 じゃあなんで 俺についてきたんだよ!!!」
「 それは !!… それは … 」
「 俺がそういう奴には 見えなかったからじゃ ねぇのか 。だから 来たんだろ 。」
「 … 知らないわよ 」
「 … 悪かったよ 。お前が家が嫌いで 飛び出したのも わかったから 。悪かった 。」

思わず 泣きそうに俯いた こいつを 抱き締めた 。少しでも 落ち着くんじゃないかと思って 、抱きしめて ひたすら 頭を撫でた 。

此奴は 特に抵抗もして来ない 。

「 … 」
「 落ち着いたか? 」
「 … ねえ 。」
「 ん?」

「 お願い 、あたしを 抱いて 。」


かなり唐突で
誤魔化そうと してみるけど

「 … 今抱き締めてるけど 」

こいつは
それを許してはくれなかった


「 そうじゃないの 。もっと 大人の 、" 抱く " 。童貞 じゃないんでしょ 、なら 出来るよね」
「 … 一応聞くけど 、何で ?」


「 … あたし ね 、ママの 再婚相手に 、色々 、体触られたりするの 。毎日 続くし 、それを知った ママが 私に あんたがあの人を 奪ったんだって 、毎日 殴られるの疲れたの 、止める 事も出来ない 父親違いの 弟も 、全部全部 嫌い 。」


当然当たり前だが 初めて知った 此奴 の 過去 を聞いて 触れてはいけないことに 触れて こいつを 怒らせたんだと 、悪かったと 、本気で そう感じた 。

「 … そっか 。でもなんで 今 、俺?お前は 今から 何年も生きて 、今よりもっと綺麗になって 彼氏とか 旦那とか 作って 、その時 、初めて 体験するんじゃないのか 」
「 いいの 。彼氏も旦那も いらないし 、どうせこのままじゃ あの男に 奪われる 。それなら 、初めては 貴方がいい 。」

俺にすがり付くように 、まるで 最初にコイツを 見つけた時 此奴が 空を見上げていた時のような 表情で 俺を真っ直ぐ 見た その目を見て 、叶えてやろうと思った 。俺が今ここで 怖気付いて 断ったら その決断でこいつは いつか 自分の予想通りに なって 一生苦しむんだ 。なら こいつが 選んだ道を 俺は 進ませるだけだ 。



「 わかったよ 。」







罪悪感 と 恐怖感 と 、少しの優越感 の 夜だった 。
未成年 の 女の子 に そうした 罪悪感 と 恐怖感 。
後は 、人間にありがちな 、人を救ったっていう 優越感 。俺もやっぱり 人間だな 、醜い 。
なにが 救ってやっただよ 。最低だな 、俺 。

目覚まし の アラーム の 音で 意識が 眠りから 覚めた 。
本当は もうちょっと 寝たいと 思ったんだけど 、隣に あるはずの 温もりが 無くて 慌てて 飛び起きた 。

「 … あれ … 」

あたりを見回したら 、ありがちな パターンだ 。俺の家 は 片付いてなかったけど 綺麗に 片付いた 部屋 の テーブル に 、丸字 の 置き手紙 。

【 1晩だったけど ありがとう 。私を 、救ってくれて ありがとう 。慎一 に 会えてよかった 。

ありがとう 、さようなら 。

莉佳子 。】


別れを 告げる時 初めて 名前を教えるなんて 笑えるな 。
でも お前らしいよ 。

「 俺も 、ありがとう 莉佳子 。頑張れよ 、莉佳子 。」


俺は 手紙を カードケース に 入れて 、服を着て もう 始まってるだろう 大学の講義に 走った 。


昨日の服を着て
昨日と同じ場所に
昨日と同じように走る 。

けど 昨日とは違う 重みを 一つ背負って 、走る 。

俺も頑張るよ

お前も頑張れ

莉佳子 。