「生け贄はまだ来ないのか? 」


館に帰るとすぐにサニーが言った。たしか昨日明後日って言った気がするのだけど。


『あら? サニーがあんなに楽しみにしてるのに置いてきたのね』


この声はサニーですら聞こえることがないの。私にだけの妬みの声。


「明日にはこの館に自らの意思で二つ来るわ」


こういう時にいつもこう思うようにしてるの。


私は仮にもこの館の主。取り乱さない。影(えい)は知らない人。勝手についてくる挑発。挑発にのってはいけない。


「ねえサニー。本当に影の声は聞こえないの? 私にはこんなにハッキリと聞こえるのに」


「あ? ………………影ってお前の姉貴か? 知らねえよ。お前の幻聴じゃねえの? ていうか甘味はまだか? 」


こんな人じゃなかったわ。これは影でも姉さんじゃないのよ。きっと。


影は私の姉、私をおいてこの世を去ったはずの影が何故か私の近くに憑いていて話すようになった。とても仲の良かった優しい姉さんが変わってしまった。


『幻聴じゃ無いわよ。サニーってばひどいわね。馬鹿馬鹿しいモノを見せてくれるのかしらね、あの二人は』


そうよ。今はどうやって私達の心を満たしてもらうかを考えなければいけないのよ。


やっぱり暗くて恐ろしい部屋に入れて心を失った者達の声でも聞かせれば面白くなるかしら?


そうね、やっぱりそれが一番良いわ。十六夜やよいはサニーにあげましょ。


「サニー、今考えたのだけれど、十六夜やよいの方はあなたにあげるわ。煮るなり焼くなり甘味にするなり好きにして食べてしまうと良いわ。きっとその方が十六夜さつきが面白くなると思うからね」