「――あのさ、明里」
「ん?」
「……いや、やっぱり何でもない。じゃあ、また明日な」
何かを言おうとして止めた秀真は、私の頭を二度軽く叩いて自分の家の門を開けた。
秀真が家の中に入っていくのを確認した後、自分も玄関を開けて家に入った。
靴を脱ぎ捨て、真っ直ぐに階段を上がる。
階段の途中にある小窓のカーテンを閉め、自分の部屋のドアに手を掛けた。
「……っ、」
制服のまま倒れこむようにベッドに転がると、枕に顔を埋めて堪えていた涙を流した。
私は今までもこうやって、悠のことを想って泣いた。
そのたびに枕が涙で濡れて、どれほど自分が悠のことを好きなのか知る。
そしてそれと同時に、どんなに想っても悠の心が戻って来ることは無いんだと痛いほど思い知るんだ。