「……あの日以来、夜もまともに寝られません……」
 俺は、一階が酒場、二階が宿屋というごく普通の店で、予約がてら宿屋の女性に聞き込みをしていた。
 この店は、どうやら被害は無かったようである。
 陽も暮れかけ、淡い夕日の光が、窓から差し込んでいた。
「――幸い、被害の割に死者は少なかったみたいなんですが……
 それでも、またいつ魔族が襲ってくるかもしれないと思うと、不安で……」
 そう漏らしながら、ゆううつそうな顔をする。
「その時の状況を教えてもらえますか?」
「……ちょうど大通りにいた時でした……
 街の入り口の方から、急に爆発音が聞こえて。
 ――そしたら、少しずつあちこちで同じような爆発音が聞こえ始めて……
 男の人が二人、通りの向こうから歩いてきたんです。
 最初は、普通の男の人達だったんですが……
 次第に怪物みたいに姿が変わっていって……
 ……私、怖くて……そのまま気絶してしまったんです……
 目が覚めた時には、町中から火の手が上がってました……」
 よほど怖かったのか、ポツリポツリと、うつむきながらも、彼女は話してくれた。
 ……相手は少なくとも中級魔族以上ってことか……
 俺は、彼女の話を聞いて、難しい顔をした……
 ――魔族は、生まれた時は、姿も小さな獣のようで、力も強くない。
 ――しかし――
 成長し、力を蓄え、中級魔族並みの力を得ると、知能も高くなり、自分の力と意思で、思うままに変身できるようになる。
 さらに言うなら。
 何故かは分からないが、特に好んで人間の姿に変身していることが多い。
 そうなると、食事自体も数十年に一度で平気になるらしいが……
 中には、面白半分で人間を襲う奴もいる。
 ……しかし、中級以上の魔族二人が相手となると……かなりやっかいだな……
「――それで、奴らが街を襲った後、どこに行ったとかは分かりませんか?」
「……それが……気絶していて、奴らがどこに行ったかまでは……分かりません……」