「佳人、くん…?」


抱き締められたまま動かない俺に戸惑っているのか、不安そうな声が聞こえてきてハッとした。


「あやめさん、…俺、ほんと、おかしくなるくらい、あやめさんのことが好きですから」


「あ…あのね?佳人くん…」


「しー…黙って?もう少しこのままで…」


ぎゅっと抱きしめたはずの手が少し震えているのを、彼女に気付かれないように、もっと深く体を引き寄せた。



___このまま二人で、重力と一緒に沈んで行けたならいいのに…。



そんな途方もない事を思いながら、俺達は暫くそのままの体勢を崩さなかった。