「大丈夫。大好きです…あやめさんを離さないから…」 「う、ん。うん。ありがとう…」 ふわっと横から抱き締められて、私は零れてしまった涙を自分の指で拭った。 でも、私の視線は、甲斐くんの去った方に向けられたまま。 あんな、あんな甲斐くんは見た事がなかった。 何時だって、人と人の間を気紛れにすり抜けてゆく人だったはずなのに…。 なんで? なんでなの?