「先輩?」
そんな途方もない想いに浸っていたほんの一瞬。
きっと、刹那と言ってもいいくらいの間に対して、心配そうな彼の声が耳へと届いた。
ハッとして其方を向くと、泣きそうな悲しそうななんとも言えない笑顔が其処にあって。
私は慌てて、頭の中の想いを振り払い、彼へと笑顔を作る。
だけど、それはあまり上手くは行かなかった。
「…あ。ご、ごめん。何?」
「いいんです。気にしないで。急に黙り込んでしまったから、どうしてのかなって思っただけですから…」
こんなにも優しく私を包み込んでくれる人と逢っているのに、心はいつも上の空。
いい加減、罰が当たっても仕方がないはずなのに。
「寒くないですか?上着、貸しますよ?」
薄く微笑む彼の顔に、少しだけ影が落ちたような気がするのに…。
また、だ。
私のこの宙ぶらりんな態度のせいで、彼を傷付けてしまってる。
彼の優しさに甘えて、どこまでも深く傷跡をばかりを残してる。
この人の眼差しはいつだって温かくて言いようのない気持ちを連れて来る。
それは細波のように少しづつ、でも確実に…。
私の心に灯を燈してくれるようだった。
分かってる。
分かってるのに。
何度も、心の中で問い掛ける。
私は、貴方の傍にいてもいい…そんな価値のある存在なのでしょうか?
……。
答えはまだ、闇の中にある。