今の私には人を好きになる権利なんかない。
そんな資格もない。
けして人に好かれてはいけないような人間なんだ。


だって、いつまでも過去に縛られ、現実から瞳を逸し、人を蔑んでなんとか貶めようと、心のどこで思ってる。

お門違いかもしれないけれど。
彼を奪った『彼女』を恨んでる。



行かないで。
ねぇ。
傍にいて。
もっと。
この手を離さないで。
ずっと。
まだ、好きだと言ってよ…。

その凛とした私の大好きな声で…。



繰り返される想いたち。
苦しくて苦しくて息も出来ない。
瞳を閉じれば、すぐに浮かんでくるあの眼差し。
包んでくれるような微笑みはなんだったの?
本当に私の勘違いでしかなかったの?


だけど…。

気紛れでも何でも良かった。
こんな私を「好き」だと言ってくれただけで。
それだけで。

それくらい、魅力的な人だったから。
他の子達が放っておかないことを知っていたから…。


なのに。
分かっているはずなのに。
どうして今の私は、こんなに弱いの?



『好き』の言葉だけじゃいつも不安で。
いつの間にか物足りなくなって。
手を繋いでもキスをしても何度肌を重ねても。

心のどこかで、彼を信用出来てなかった。
そうなんだ。
いつか来るかもしれない「別れ」に怯えてた。



本当は彼を心から信じ切れなかったことが良くなかったのかもしれない。
きちんと、言葉を紡げなかった自分が1番悪かったのかもしれない。


だから。
人に好かれる資格なんかない。
私みたいな想いを、他の誰にもさせたくない。
そう思いながらも。

心はくるくると移り変わって行くんだ。



愛が欲しいと求めてる。
抱き締めて欲しいと叫んでる。
蹲って此処からずっと動けないでいる。
体を震わせて、幼い子供のように泣いている。




そんな複雑な想いを胸の中で膨らませながらも、私は待ち合わせのカフェのドアをカランと鳴らすのだった。

そして案内されるまでもなく、優しくて温かくて柔らかな笑みを持つ、あの人のいる席へと向かった。

…全ての闇を、浄化してくれるあの人の元へと…。