「─え…」


男の人の声で呼ばれ、思わず目を向けてしまった。


そして、立ち止まってしまった。


…わたしの馬鹿。

聞こえないふりをすれば良かった。


わたしを呼んだ相手を確認した瞬間、心底そう思った。


「…お父さん」


そこには若い女の人と腕を組んだお父さんが、わたしを見て笑っていた。


そうだ。今まで気づかなかったけど、この通りってホテル街が近い。


深瀬くんをストーキングするようになってから通っていた、人通りの少ない道。


まさかここで、こんな時間に、浮気中のお父さんと会うなんて…。 


「今学校の帰りか?」

「うん」


ていうか浮気中に娘に声かけないでよ。信じらんない。


一緒にいる女の人もわたしを見て微笑んだままだし、どっかおかしいんじゃないの?