「わたし、お母さんを守ってるつもりだったんだ。お父さんの機嫌を損ねないように、自慢の娘でいられるように、成績優秀で良い子を演じてた。だから今まではお父さん、わたしに手を上げることは少なかったの。お母さんに手を上げる時、止めに入るとお父さんは冷静になってくれた。でもこの間からそうじゃなくなったの。その結果が、これ」


自分の顔を指さし、自嘲気味に笑う逢川。

俺はどんな反応をすればいいかわからなかった。


女が男に暴力を奮われるだけで傷は大きいだろう。

相手が自分の父親なら、尚更。


逢川の痛みを全て理解することはできないけれど、俺も親のことが悩みだった。

俺の場合は義理の親だったから。

でも逢川の場合は逆にしっかり血の繋がりがあるから、余計に辛かったのかもしれない。

実の親に傷つけられた心と体。


今の逢川を見ると、胸がえぐられそうな感覚がした。

苦しんでいるのは俺じゃねぇっつーのに。


「不倫相手にフラれたんだろうね。浮気する相手がいなくなって、ストレスが溜まっていって、わたしとお母さんは顔も体も関係なく殴られ続けて。もうね、お父さん、前と雰囲気からして違うんだよね。何をしても止められないってわかる。このままだとわたしが学校に行って家にいない間にお母さんが殺されるんじゃないかって、本気で思った。だから休学にしたの」