「深瀬くんが知ってる咲良はね、作り物なんだよ」

「作り物だ?」

「そう。本当のわたしは、汚くて醜くてどす黒いの」
 
「……は。」

「学校での咲良はね、明るくてノリが良くて皆に人気があって、友達がたくさんいる。逢川家の中での咲良になると、聞き分けが良くてわがままを言わず勉強ができる、お父さんとお母さんの自慢の娘。…でも、ぜーんぶ作り物。本当のわたしはどこにもいないの」


…なんだ?言ってる意味がわかんねぇ。


「どこにもいねぇなら、本当のお前ってのは一体何なんだよ」

「例えばね、どんなに楽しくて夢中にしてても、現実に戻ることがあってね、そうなるとそれまで楽しかったことが一瞬にして楽しくなくなるの。全然楽しいと思えなくなって、楽しいふりをしてるだけになるの」

「なんだそりゃ」

「…本当のわたしはね、心の奥底。そこにいる咲良は自分でも恐ろしいと思えるほど冷たくて怖いの」


穏やかに、まるで冗談を言っているような表情と声。


からかってんのか?こいつ…。


「ふざけんなよ」

「それが残念ながらふざけてないんだなー。冗談だったら良かったのにね」

「お前、いい加減に…」

「わたし、深瀬くんに謝らなきゃいけない」

「あ?なに…」

「好きって言ってごめんなさい」

「──」


突然俺に向かい頭を下げ、真面目に謝罪する逢川。

なぜか胸が鈍く疼いた。