「あ゛あ゛?!こいつの笑顔を奪ってんのはてめぇだろうが!!」

「んなことあるわけねぇだろ!咲良はいつだって笑顔だ!笑顔を絶やしたことなんてねぇ!」

「ならなんで泣きながら勉強してんだよ!」

「はあ?知らねぇよ!咲良は俺の前ではいつも笑ってんだよ!俺に殴られる時だってなぁ!」


───!!


「てめぇは父親失格だ!!」

「なっ、なんだと?!調子こいてんじゃねぇぞクソガキ!!」

「お父さんやめて…っ!」

「あなた…!」

「──」


俺の頬を殴りかかろうとした手を、首を倒し寸手のところでよけた。


空を切り何も当たらなかった手。


逢川の親父は驚きに満ちた目で俺を見つめた。


「イラついたならそうやって自分と対等、じゃなきゃ自分より強ぇ奴を狙えよ。てめぇより弱い奴、しかも家族に手ぇ出してんじゃねぇ!それでも親かよ!!」

「深瀬くんっ!」

「う゛おっっ……」


力強く放った俺の右手は、ほんの数ミリのところで逢川の親父には当てず、壁に大きく穴を開けた。


「……」


身動できずにいるが、俺の怒りは到底収まらない。


「今まで逢川が与えられてきた恐怖が、てめぇにわかるか?」

「…」

「今までてめぇが与えてきた恐怖が、どれほどのもんかわかるか?!」

「…」

「てめぇのガキだろーが!逢川の傷も恐怖も、てめぇの頭が腐ってるせいで理解できねぇんだよ!!しっかりしろよ!!」

「…」


どんなに怒鳴っても反応はなかった。


「…てめぇなんか、殴る価値もねぇ」

「…」


手を離すと、逢川の親父はずるずると床に座り込む。


「深瀬くん!」


逢川と目も合わせずに俺は部屋を後にした。