「…ごめん。やっぱり何でもない。わたしは大丈夫だから帰ってちょうだい。心配してくれてありがとう」

「は?お前、何言って…」


振り返り、また机に向かい勉強を始め出す逢川。

でもペンを持つ手が震えている。

よく見ると、ノートやテキストは涙の跡でいっぱいだった。


「…本気で言ってんのか?」

「だからそう言ってるでしょ?もういいから…」

「これは!お前が望んだ状況なのか?!」

「……」

「お前は今!幸せなのか?!」
 
「……そんなわけ…ないでしょ……」


俯き、逢川は顔を両手で抑えた。


「逢川…」

「深瀬くんは本当の両親がいなくて辛い思いをしたかもしれないけど、わたしは本当の親がいるせいで幸せじゃないよ。勉強なんかしたくない。こんな所、いたくないよ…」


─もうそこから、俺の思考回路は途切れた。


「──っ!」

「やっ、痛っ…!なにするの…」


逢川を部屋から追い出し、椅子を手に取り力任せに机に叩きつける。

大きな音が部屋中に響く。

何度も何度も、ひたすらその行為を続けた。


─こんなボロボロになって、なんで好きでもない勉強をしてんだよ。


なにやってんだよ馬鹿野郎!!


椅子が壊れてもどんなに机が傷ついても止められなかった。


─逢川、お前がいたくねぇ場所なんか、俺が全部消してやる。