「今でも忘れない。あの時のあなたの顔。本当に可愛いかったなぁ。わたしに子供ができないのはあなたに出逢う為だったんだって思えたわ」


当時を思い出してんだか知らねぇが、あまりにも穏やかな表情をするもんだから、さっき口にした言葉を少しだけ後悔した。


作り話ではないのだろう。

恥ずかしいことに、そう信じたい自分がいる。


「でもそれがわたし達のただの押し付けであって、あなたが幸せじゃなかったらなんの意味もない。あなたが非行に走るのもわたし達親への当てつけで、不満があるからだったとしたら、離れた方がいいのかと…。違う親の方があなたが幸せになれるんじゃないかと悩んで…」


また泣き出すこの女。

泣けばいいとでも思ってんのか?

俺があんたの涙に弱いことを知っててやってんじゃねぇのか?


だとしたら、俺はとんでもなく愚かだ。


「本当のことを言うと、あなたを憎もうとしたこともあった。施設出だからと馬鹿な理由をつけて。そうしたらあなたが望む親の元へ引き渡せるから。でもね、何度そう思っても無理だったの。わたしにはあなたがいないと…」

「俺が望む親ってなんだよ」

「え?…それは…」

「俺の親はお前等じゃねぇのかよ」

「…圭悟…」

「一度親になったんなら一生責任を持つのが筋だろうが」

「…そ、それはそうだけど、あなたの幸せの為なら」

「俺の幸せは俺のもんだ!いくら親でも、てめぇが決めるもんじゃねぇ!」

「──。」


言ってることがめちゃくちゃだ。

それはわかっているのに、ちゃんとした言葉が出てこない。

でも止まらねぇ。