……現実には無理だろう。

きっと、ずっとこのまま。


卒業してもお母さんを見捨てることなんてできず、一人暮らしなんてできるわけもなく、この生活を続けていくだけ。


ずっとこのままお母さんが殺されないように脅えて、不安を抱えて、お母さんを助けることを最優先に考えて過ごしていくだけ。

どんなに馬鹿で愚かな母親でもわたしのお母さんはあの人しかいないから。お母さんがいなくなったら、わたしは立っていられないから。


わたしには、自由なんてない。

わたしには、生まれた意味なんてない。

わたしには、明るい未来なんてない。


だから就職して一人で生きていくなんてただの夢物語。

深瀬くんへの恋も、夢物語の一部に過ぎない。


きっとさっきの深瀬くんとの優しい時間は、神様からの最後のプレゼントだったんだね。

最後の幸せだったんだね。


──ありがとう神様。もう充分。


充分、恋の幸せを感じられたよ。

恋愛を楽しむことができたよ。

恋愛のお陰で友情まで再確認できたよ。恋愛の素晴らしさ、たくさん知れたよ。


ありがとう。



……深瀬くん。


わたしが消えたら、いなくなったこと、気づいてくれますか?