「──」


瞬間、堪えていた涙がこぼれ落ちる。


深瀬くん深瀬くん深瀬くん深瀬くん─。


待っていてくれたことが嬉しいのに素直に喜べない。

あの表情の裏にたくさんの傷を抱えているのかと思うと苦しくてたまらない。


ああもう、だめだめ咲良。

泣いたら深瀬くんの所へ戻れない。このまま戻らなかったらさすがに不審に思われてしまう。


頬を擦るようにして涙を拭い、乾かそうと手で扇ぐ。

深呼吸をして自分を落ち着かせる。


「咲良ちゃん!」

「──え」


明るく優しい声に顔を上げると、その正体はご機嫌な深瀬くんのお母さんだった。


「こんにちは!」

「こっ、こんにちは!」


今日もオーラ全開だなぁ!

でもいくらオーラがあっても昨日の晋の話を聞いたあとだから、見る目が変わってしまう。


こんなに優しい雰囲気の人が、深瀬くんを傷つける程に狂ってしまっていたなんて想像もできない。


やばい。泣いてたのバレてないよね?あんまりお母さんの方、見ないようにしなきゃ!

ていうかまた病院に来てるけど、晋は知ってんのかな。ほっといて大丈夫なのかな。


「今日も来てくれたんだね!ありがとう!」

「あ、いえ…」

「わたしもまた来ちゃった!一緒に来た子は同じクラスの子?外にまで声が聞こえて、仲良さそうで楽しかったな!」


わたしの向かい側に座り、嬉しそうに両腕で頬杖をつく深瀬くんのお母さん。


…外にまでってことは病室の外で聞いてたんだ。きっと中に入りたかったんだろうな。