─あ、目線外したな。

わたしの勝ちだわ。真っ赤な顔してそんなこと言ったって、通用しないんだから。


よし。言うことを聞かないダーリンにお仕置きしてやるわ。


…なんて、わたしってしょうもない女だなぁ。


「ダーリン、ちゅーしよっか」

「──!!!」


─それは本当にキスができるくらいの距離で。


無理やりにでもしようとすればできたんだろうけど、そんなことをしたってきっと無意味だろうからしない。


ただ、からかう為に言っただけ。


ところが目線を外していたはずなのに、たった一言でダーリンはわたしに目を向ける。

それも大きく見開いて。


「ね?」

「おっ(お前)!ばっ(馬鹿か)!ふっ(ふざけんな)!」

「ぶはっ!」


ダーリンのあまりの可愛いさに、吹き出さずにはいられなかった。


まともに怒りもできないほどの衝撃なんだね。純情すぎて、わたしがどれだけ汚いか思い知らされる。


微かに胸が痛んだ。


──と同時に、学校中に予鈴が響きわたる。


わっ、ご飯全部食べてないや!でもお腹いっぱいだしいっか!


「じゃあね!先行くねダーリン!」

「…あ?ああ…」


まだ軽く放心してる。面白いなぁ。


「ダーリン、大好き!」

「ぶっ!」


大袈裟なくらいの大きな反応をするダーリンを残し、屋上を後にする。


階段を駆け下りながら、心が痛むのと同時に温かくなるのを感じていた。