『どこのお父さんもお母さんに手はあげる』だ?


んなわけねぇだろ。

親父が母さんに手を上げることは絶対になかった。考えたこともない。


二人は見ている俺が恥ずかしくなるくらい、仲が良かったから。


男が女に暴力をふるうことは、普通なわけがない。


──だからか。

俺の脅しが通用しなかったのは。


男に殴られることに慣れていたら、そりゃ脅したところで痛くも痒くもねぇよな。


「…え?ああ、それはダーリンの場合でしょ?みんな口にしないだけで、普通は男が女に手をあげるのは当たり前…」

「はあ?普通なわけねぇだろ。馬鹿か」

「何言ってんのダーリン。みんなここまでひどくないから言わないだけで、家の中じゃ」

「ひでぇもなにも、DVは犯罪だろ。つーか男が女殴った時点で警察沙汰になってもおかしくねぇ。お前、マジで言ってんのか?お前、マジで言ってんのか?常識知らねぇのか?」


いや、暴力自体が基本犯罪だからな。こいつ、冗談じゃなく本気で言ってんのか?嘘だろ?


「…じゃあ、うちがおかしいの?」

「マジで言ってんのかよ…。異常も異常だろ。んな日常的にDVがあってお前の母親、サツに何も言わねぇのかよ。家に来たりしたことねぇのか?」


いくらなんでも普通母親なら、躾でも何でもなく子供が殴られたなら警察行くだろ。今回が初めてじゃなさそうだしな。


…まあ、普通の親なんて俺は知らねぇけど。


「…ないよ」

「DVでも離れねぇ、サツにタレコミもしねぇ、それどころか当たり前のことだと思ってやがる。そっちのが異常だな。…まさか、親父が相手だったとは」

「やっぱり、うち、おかしかったんだね」