「咲良?」


俺のことを少し気にかけながら、おばさんはあいつを追いかけていった。


あっという間の出来事に、俺の思考はすぐにはついていけずにいた。


段々と落ち着きを取り戻し、バイクを発車させる。いつもならこのままケンカが勃発していそうな場所に向かうところだが、またもや直帰コース。


逢川が絡むと、どうしてかケンカをする気が薄れるようだ。でも今の俺は、それより逢川の態度が気になっていた。

風を受けながら、マンションに向かい単車を走らせる。


…確かに、母親に見られるにはよくない場面だったかもしれない。


にしても、何なんだあの逢川の異常な造り笑顔は。


俺にでもわかるぞ。ひきつってるようにも見えたからな。それにしては慌てる様子はなかった。造り笑顔も、慣れてる感があった。


─なんだあいつ。


マジで意味わかんねぇ。わかったところでどうもしねぇけど。

つーか、何を気にしてんだ俺は。


「…」


明日、明後日は休み。


月曜の朝、気が向いたら迎えにきてやるか。