「つきましては奥様より、圭悟様に重要なお話があるようです。ご自宅でお待ちです。さ、参りましょう」

「は?」


重要な話?なんだそれ。


こいつの崩れない表情は、こんな状況であっても健在だ。


主が亡くなっても、こいつは何も変わりゃしねぇ。


そのせいで重要な話ってのがいい話なのか悪い話なのか、見当もつかねぇ。


家に向かう車の中、ざわつく胸を無理矢理抑え込む。


今まで色んな経験をして、どんな状況にも尻込みすることなんてなくなっていた。なのに、どうしてこんなに平静でいられねぇんだよ。


どうして恐怖に似た情動が、俺を飲み込もうとするんだよ。


ちくしょう、一体なんだってんだ…。



「出ていってほしいの」

「──」


まるで魂の抜けた、人形のような姿。


目は宙を浮いて、なんの感情もない顔。その口からこぼれる言葉にも、感情なんて物は存在しない。


それは初めて見る、異常にやつれた母親の姿だった。