「知らねぇよ。金さえ出せば俺はどうでも…」

「旦那様がお亡くなりになられました」

「──。」


──は?


今、なんて…


「ひと月ほど前のことです。旦那様は以前から闘病生活を強いられておりましたが、その甲斐も虚しく他界されました。それが原因で奥様が大変落ち込んでおられましたので、こちらに伺うのが遅くなりました」

「……」


庄司の声が、どこか遠くに聞こえる。きちんと理解ができるまで、なぜか時間を要してしまう。


闘病生活?いつから?てかあいつ、病気だったのかよ。病気で死ぬとか、どれぐらい重かったんだ?しかも1ヶ月前って…。


─俺は何も知らなかった。


「通夜や葬式、様々な手続きなどで手がいっぱいであったこともございますが、なにより旦那様が亡くなられたことに、奥様はとても悲しんでおられました。最近になりようやく悲しみから抜け出せ、少し落ち着いてきたように見受けられます」


──通夜?葬式?


んなもんあったのか?


一応は息子であるはずの俺が、通夜にも葬式にも出ていない。


ましてや、その知らせさえきていない。


…俺はとっくに、深瀬家から捨てられていたんだな。