「──っ!!!!!」



壁にいびつな穴が開く。


部屋にいくつもある殴った跡の中で、一番大きく開いた穴。


手に血が滲んでいることに気づきもせず、そのまま家を出た。


痛いとか、そんなことを考えすらしなかった。神経は全て麻痺しているかのようだ。


思考はきっと停止していた。


頭の中は真っ暗だったから。いや、真っ黒だったんだ。


記憶は曖昧で体の感覚も鈍く、自分の感情がわからない。


泣きたいのに涙が出ない。叫びたいのに声が出ない。


夜の闇に消えてしまいたいのに、どうしたらいいかわからない。


ふらふらとあてもなく、ただ歩みを進める。



──二人が必要なのは、俺ではなく学力。

深瀬家の為に使われる、この、脳みそだけ。

とどのつまりは頭が良ければ誰でもいいって話なわけだ。


俺じゃなくてもいい。俺じゃなくていいんだ。


二人の子でいる必要性は、今の俺にはない。