「絢香」

「深瀬家のブランドがあの子のお陰で台無しよ!ねぇ、今からでも籍を…」

「絢香!!」


荒れる母親の腕を、ぐっと掴み声を張る父親。


──それ以上は聞いていられなかった。細い隙間から見える二人を、目にしていられなかった。


ドアノブにあった手を力なく離し、音も出さず自分の部屋に戻る。



「─っ、……」

「何を言ったってどうしたって、圭悟は俺と絢香の子なんだ。俺達の子は、圭悟しかいない。俺は圭悟を信じてる」

「わたしだって…。わたしだって信じてたよ…。でも、どうしたらいいかわからないんだよ…。信じる度に、あの子は嘲笑うように裏切るの」

「それでも信じるんだ。自分の子を信じないでどうするんだよ」

「自分の子って…。わたし、もうそんな風に思えな…」

「俺は圭悟も、絢香も信じてる」

「……そうだね…。わたし達の、子供だもんね…」



──こんな会話を二人が続けているなんて知らずに、俺は暗い部屋の中で、ぐちゃぐちゃになっていく心を抱えきれずにいた。